「遊子楽しむ」 by 花輪 繁廣
- 2018.03.12
- 日本ほっつき歩き
小諸なる古城のほとり 雲白く 遊子悲しむ
「遊子はどんな意味?」「なんで悲しむの?」などと無学無知をさらけだしながら、2月半ばに旅じゃ有志と、小諸の懐古園を散策した。
もちろん遊子とは旅人のこと。若かりし頃「千曲川旅情の歌」「初恋」など島崎藤村の詩はよく読んだのに、すっかり忘れてしまっている。
残雪がまだ小諸城址のあちらこちらに残り、藤村がこの作品を書いた季節は、春には早い、空が寒々としているちょうど今頃だったのだろうか。
今回は地元の旅館が企画する長野の東信濃地方、佐久や小諸の酒蔵をめぐる旅に参加した。最寄駅は北陸新幹線の佐久平、東京から1時間とちょっとで着く。
ツアーに参加した遊子は、東京からの女性2名と我々旅ジャの酒大好き有志5名。
ガイド役の観光ボランティアの女性とツアーコーディネーター、宿の女将さんなど総勢5名が至れり尽くせりで我々を案内してくれた。
佐久地方は、県内でも有数の良質米の産地で、浅間山や八ヶ岳連峰に囲まれ湧水も豊富。高地の冷涼な気候とあわせ、「米」「水」「気候」の三拍子がそろい、昔から酒造りの盛んな土地柄だという。
この佐久地方には、長野の約80ある酒蔵のうち13の酒蔵があるそうで、今回は佐久市の「橘倉酒造」と「木内醸造」の二つの酒蔵を訪ねた。
ツアーの目玉は、なんといっても自由におかわりのできる利き酒がメイン。嬉しいことに大吟醸から、最近人気のスパークリング日本酒などを試飲できる。
「木内醸造」は、安政年間 の創業でいかにも地方の素封家というたたずまいだ。普段は非公開という昭和の香り漂う酒蔵で、社長みずから蔵を案内してくれた。
この酒蔵では、外気で凍らせた蒸し米を酒造りに使った「凍米」という、全国でもここだけの珍しい酒を試飲した。また酒の品質を保つには、光の入るビンより紙パックのほうがいいとか、精米した米ぬかは、加工用としてすべて新潟のせんべい屋が買っていくなど、酒蔵ならではの面白い話も聞けた。
一方の「橘倉酒造」は、江戸元禄時代 の創業という340年あまりの歴史ある酒蔵だ。特に私の興味を引いたのは、その書画のコレクション。明治に入ると自由民権の思想家たちと親交を深め、政治にも関わるようになったという。その親交の証が資料館いっぱいの掛け軸や絵画の山だ。
昼食をとるため居間に案内されたが、そこには中江兆民の「民為重」(民重きを為す)という書が掲げられていた。兆民が地方遊説で橘倉酒造に立ち寄った時に揮ごうしたものだそうだ。
また「大同」という孫文の書なども、仏間になにげなく掲げられていた。
この他、勝海舟、大久保利通、伊藤博文など明治維新の中心人物たちや、明治・大正・昭和の政治家、文人墨客たちの書が資料館いっぱいに陳列されてあった。
なるほど、この橘倉酒造は、三木政権の時の官房長官を務めた井出一太郎や社会評論家の丸岡秀子 などを輩出した家でもあり、むべなるかなである。
今年は維新150年とかで、NHKの「西郷どん」はじめ、様々なイベントが始まっている。
この橘倉酒造のコレクションは、もっと世に知らしめる価値があるのではないかなどと、利き酒の過ぎた頭で考えた。
ツアーは酒蔵巡りの途中に、日本最古の洋風学校で国の重要文化財に指定されている「旧中込学校」、最近出来た新しい観光名所の「ぴんころ地蔵」、そして藤村の旧宅のある古刹「貞祥寺」なども見て回った。
酒蔵巡りの旅は、どうも利き酒を飲みすぎて宿に着いたころは、もうべろべろ。
お地蔵さんに願掛けはしたが、ぴんぴんより「べろべろころり」もいいなぁーなどと思いつつ、宿の中棚荘名物リンゴ風呂に浸かっていた。
☆
今回お世話になりました、明治の文豪 島崎藤村ゆかりの宿 信州・小諸の「中棚荘」 さんです。
「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり」
(島崎藤村『若菜集』より「初恋」)
藤村のこの「初恋」をモチーフに、中棚荘では10月から5月ごろまで、内湯の湯船にりんごを浮かべる「初恋りんご風呂」が楽しめます。
また、御牧ヶ原の高台に有機栽培するブドウ畑を保有し、オリジナルワインも販売しています。今年2018年秋、仕込みを目指し、自社ワイナリーを立ち上げることになったそうです
中棚荘さんの素敵なホームページは
↓
次の旅先はこれで決まりですね!! (^^)
( 2018年3月12日寄稿 )
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