日本海冬の旅  ☆☆丹後半島のズワイガニを食べ尽くす☆☆  by 小川 金治

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成熟した雄ガニの甲羅には寄生虫の卵が付いている

 

今年のズワイガニの解禁日は11月6日だ。これは富山県以西の日本海での解禁日である。毎年、ズワイガニの解禁日が近づくと、十数年前の恐ろしい体験が脳裏に蘇える。思い出しては今でも体が震えてくる。

ある雑誌の取材で、冬の丹後半島を訪れた。冬の丹後半島の味覚と云えば「ズワイガニ」である。山陰では「松葉ガニ」、北陸では「越前ガニ」の通称で親しまれている。丹後半島の経ヶ岬沖がズワイガニの有数の漁場で、丹後半島西側にある間人(たいざ)港が一番近い漁港だ。間人港からのカニ漁船は午後に出港し、翌日の午後3時と5時のせりに間に合うように帰港する。この漁場に近いのと鮮度が、カニの味に影響する。間人港に水揚げされた雄のズワイガニで厳選されたカニが、「間人ガニ」の特別高級なブランドになる。特に湯ガニの甘さと気品のある味わいは絶品である。

間人港の午後はカニ漁から帰る船と出港する船が行き交う
間人漁協でセリにかけられるカニは仰向けで一杯ずつ並ぶ

丹後半島はそれまで何度か訪れており、観光協会の皆さんや旅館のご主人達と親しくお付き合い頂いていた。三泊四日の行程で、一泊目は丹後半島の西側にある木津温泉「えびすや」、二泊目は天橋立の「文珠荘」、三泊目は宮津の「茶ろく別館」と決められていた。いずれも丹後半島の名旅館だ。期待に胸を膨らまし、冬の丹後半島へ向かった。

初日の木津温泉のえびすやの夕食は、卓上一杯に約30杯の湯ガニが仰向けで並んでいた。当時、専務の蛭子政之さんが、えびす顔で驚く僕を見ていた。当然、酒を飲むのも程々に、夢中でカニを貪り食べた。何杯食べたか覚えてないが、残したカニを恨めしげに見ながら酔ったのを記憶している。

二日目は天橋立の文珠荘で、観光協会の皆さんや社長の幾世淳紀さんとの会食になった。広間で芸者さんの「宮津節」の踊りと唄を楽しみながらのカニ懐石料理を味わった。夢の様な時間が流れ、今でも宮津節の繰り返し唄われる「丹後の宮津で〜ピンと出した〜」の節が能に焼き付き、時たま口ずさむ。

宴会疲れの三泊目が宮津の茶六別館。社長の茶谷昌史さんとの会食で、「かにづくし会席」の料理が次々と運ばれてくる。僕の顔は強ばり涙目になっていた。料理に延ばした箸がブルブル震える。その時、茶谷さんが柔和な顔で一言「うちの料理はお口にあいまへんか?」

蛭子さん、幾世さん、茶谷さんの三人が、「カニで殺しちゃろ!」と策謀したのだった。僕は見事にカニで殺された。京都人は粋な遊びをする。それから一週間は、汗もカニ臭い感じがした。

今でも思い出すと、僕の顔は幸福感に満ち目尻が下がり、口から涎が垂れそうになる。そして体が震える。

今一度願うなら「もう一度、カニで死んでみたい!

 

 

( 2013年11月1日寄稿 )