< 観光地と災害時トイレフォーラム > 報告  by 菊池 正浩

NO IMAGE

 

~観光地は災害時のトイレ対策が出来ているか?~

 「災害時トイレどうしよう! in浅草・雷門」 報告

 

旅ジャーナリスト会議主催のフォーラムが、下記の通り開催されました。

多くの方のご参加を得て、盛況に終えることができました。

ご参加の皆様、関係者の皆様に感謝し、ここにご報告申し上げます。

 

画像満載の講演になりました

 

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、外国人観光客二千万人時代、国内でも高齢化や要配慮者の増加を考えると、災害対策は喫緊の課題である。東京スカイツリーの開業効果もあって、観光客年間約四千万人、うち外国人約五百万人といわれる浅草・雷門に焦点を当ててみた。

「想定外の災害!貴方はその時どうするか?」町会や商店会主体の自助・共助は勿論のこと、通学者、就業者、仕事で来た人達の一時帰宅困難者や、外国人を含む多くの要配慮者避難対策はどうなっているのか?

取材と現地調査で浮かび上がった問題点を提起し検証したい。

■日  時  2015年5月23日(土)14:30~16:50

■会  場  きゅりあん6F大会議室(JR大井町東口)

■主  催  旅ジャーナリスト会議

■協  力  特定非営利活動法人日本トイレ研究所

 

14:50~15:30

基調講演――観光地は災害時にトイレ対策が出来ているか?

  「本当のホスピタリティはトイレから」

  「外国人観光客2千万人時代のトイレはどうする(全国)」

  「5年後のオリ・パラでトイレ対策をどうする」

  「災害が発生したら観光地トイレはどうなる、どうする」

     上 幸雄氏(特定非営利活動法人日本トイレ研究所 理事)

15:40~16:50

 パネルディスカッション

  「観光地で地震が起きたら、どうするの? 

   まずは、トイレから考えよう。」

    パネリスト・コーディネーター 上 幸雄氏(日本トイレ研究所理事) 

  荒木 啓幸会員(旅行業界・旅ジャーナリスト)

  菊地 正浩会員(フリーライター・旅ジャーナリスト)

上様による基調講演風景

 

パネルディスカッションの内容抜粋

 

○浅草・雷門の防災マップからみる避難計画について

 

浅草・雷門に限れば、九町会2744世帯、4907人である。

仲見世を中心に商店数は約450軒、就業者は大半が地区外から通勤、通学者と併せ昼間人口は数倍の規模になる。

防災マップでは浅草寺・花川戸公園~浅草小学校~隅田公園一帯に避難誘導が計画されている。地元住民の避難所は浅草小学校で一時帰宅困難者とは区別されているが質量ともに問題が多い。災害の種類、規模にもよるが、春夏秋冬の季節、早朝、昼間、夜間、深夜、天気、日曜祭日、平日により状況は異なるので綿密な対策が必要と考える。

 

○避難場所の現況

 

●浅草寺帰宅困難者受け入れ協定(平成24年6月13日締結)

一千人分の飲料水、非常食、毛布の備蓄を寺の倉庫に保管。2か所のトイレ(66便器)に台東区がディーゼル発電機を一基ずつ設置。電気、水道が止まっても井戸水で水洗機能を維持できる。一時避難所であり帰宅困難者の数によっては受け入れることも出来ない。雨天などの対策や下水道が使用出来ないとディーゼル発電しても使えない。

 

●台東区立浅草小学校(花川戸) 

創立141年の名門、東京大空襲でも焼失しなかった。休日・夜間は原則として機械警備。避難所として3Fの体育館面積 562㎡ 災害時簡易トイレと備蓄品倉庫有。実情は避難所として受け入れ出来る施設とは言い難い。トイレ総数の不足に加え、要配慮者が使えない和式が多い。一時帰宅困難者、観光客(含む外国人)も避難することが予想される。昼間、夜間、四季、天候などによっても対応が異なるし、特に夜間は教職員も居ないので、どうするのか課題が多すぎる。

 

●浅草保健相談センター

避難所ではないが小学校に隣接、3.4Fは東京都に貸与、平日午前8時30分~午後5時15分 土・日・祝は閉館

職員は全員雷門地区外に居住、鍵はなし。

 

●浅草文化観光センター  

基本的に各階にトイレ有 1.4.7Fには多目的トイレの設備。1Fに外国人観光客対応窓口。英語、中国語、韓国語通訳。 

 

●浅草公会堂(避難所ではないが観光客など一時帰宅困難者誘導) 

ホール1082席、第一集会室(3F)70名、第二集会室(4F)50名、三集会室(5F)50名、楽屋第一21名、第二()38名、第三16名、個室AB6名、控室70名、地下2Fリハーサル室50名、展示ホール100名、ステージ・ロビー・廊下500名。合計1000名、肢体不自由者専用トイレはホールに男女別各1。 

各階には、「だれでもトイレ」有。

 

●台東区民会館(平成27年4月リニューアルオープン)

8・9F会議室1~5F388名、ホール300名、特別会議室282名、同和室40名、各室に洋式トイレ、多目的トイレ有。

 

●都立産業貿易センター台東館 

1F~7F展示室5836㎡という広さ。会議室A・B2室35名、各階に洋式トイレ、2Fに救護室。

共に、避難所に指定されていない。

 

○隅田公園、花川戸公園などの公衆トイレ

 

東京スカイツリー開業に伴い公衆トイレの改装が急ピッチで行われ、従来の汚い公衆トイレから斬新な公衆トイレに建替えられた。ただし、従来あったところに建替えたので、数が増えたというわけではなく、観光客増加を考慮すれば増設しなければならない。

 

●仲見世の公共トイレ

以前和式のみであったが、一部洋式になったので改善はされている。しかし、これだけの観光客を考慮すると小規模な公衆トイレ4か所では質量共に不足しており、相変わらずトイレの問題は喫緊の課題と言える。

商店、事業所などの民間施設を結集する必要がある。

 

○究極の災害時トイレ対策は下水道にあり 

 

災害時、電気、水道が普及しても下水道管の点検、ポンプ場と下水終末処理場・水再生センターへの送水可否、処理場の稼働・隅田川への放流可否の確認が出来なければ、水洗トイレや炊事、洗濯、風呂の水は流せない。

東京都下水道局北部下水道事務所(旧蔵前国技館跡)

台東区の下水道は合流式で普及率100%である。汚水・雨水を集約して処理するポンプ場で、ここから三河島の水再生センターへ送り浄化されて隅田川に放流される。1時間に50mmの雨量を想定して作られており、最近の1時間100mmを超えるゲリラ豪雨には対応できず、そのまま隅田川に放流しなければならない。一部には75mm対応の設備もした。耐震化は下水管700mm以上についてのみ実施済。その他はこれからで私有地の耐震化は各自がしなければならない。災害時、下水管の点検は、事務所の6Fにある。

台東区の出張所が行う。

 

台東清掃事務所(隅田公園山谷堀広場)

ゴミ収集は平成26年4月より戸別収集を実施。ゴミ集積所ではなく各家庭の前に出して一軒ずつ収集していく方法。(可燃と燃やさないゴミ)

台東区にはゴミ焼却場がないため墨田、中央、足立、葛飾、江東区へローテーションを組んで運んでいる。ペットのし尿処理については別途業者に委託している。

災害時、水洗トイレが使用出来ない場合、携帯トイレ、オムツ、生理用品などの集積場所、回収方法はどうするのか。町会での協議、取り決めが必要である。

 

○まとめ

取材と現地調査により問題点をあげたが、これをもとに向上を図っていって欲しい。よりよい旅の環境は勿論、昨今取り沙汰されている首都直下型地震、津波・高潮、ゲリラ豪雨、突風・竜巻、火山噴火など想定外の災害に備えなければならない。備えあれば憂いなしである。一番感じたことは、それぞれの分野で対策を講じてはいるが、縦割りでなく組織を繋げた協議、対策、備蓄、訓練、教育が急がれると思う。

例えば、台東区役所でも危機管理室・災害対策、上・下水道、観光、町会関係、公園・土木などが入り、地元の各町会・防災会、商店会、観光連盟、旅館ホテル組合、医師会・歯科医師会、看護、薬剤、障害者福祉関係などと一緒に協議していく必要があると思う。折角助かっても避難所でのトイレ問題から感染症や体調不良になり、エコノミークラス症候群などで関連死などしては元も子もない。生き残ったら生き延びるためにあらゆる部門の結集が必要である。東京オリンピック・パラリンピックのことを思えば、バリアフリー化とトイレ対策、なかんずく要配慮者対策の多目的トイレなど一層の質量充実が求められる。

1964年の東京オリンピック時、人口9718万人に対し65歳以上は6%。2020年のオリ・パラ時は1億2410万人に対し約30%が予想されている。

高齢化社会と障害者や要配慮者(含外国人観光客)に優しいまちづくりとトイレの充実が求められる。

今回は、浅草・雷門を取り上げてみたが、東京スカイツリー周辺、台東区では上野公園、アメ横、また秋葉原電気街、池袋、新宿、渋谷など観光地として賑わいを見せる地区も対策は急がれる。災害は忘れた頃でなく、忘れないうちにやってくる。そのことを肝に銘じて急がねばならない。

 

本件の問い合わせは  335-0004 埼玉県蕨市中央4-2-11 菊地 正浩

                    フリーライター・旅ジャーナリスト会議理事・日本トイレ研究所会員

                    日本地図学会会員   電話・fax 048-432-2013