現役路線バスの運転手は語る②  by 増井 隆之

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< 問われる「夜間高速ツアーバス」運行のモラル >

 今回の関越道で起きたツアーバス事故の報道でしばしば報じられた事柄に、運転手が目的地に着いてから、次の発車までどのくらい睡眠や休憩を取っていたか、またはこの間、どう過ごしたかという内容がありました。

 通常の夜間高速路線バスは、自社と提携している相手側のバス会社と取り決めをして、「到着してから出発まではその指定営業所の仮眠室や浴場等の施設を相互に使う」ことが普通です。ですから朝出発地に着いて、夜までそこで睡眠をとることができます。ただし、お互いに共同運行していない同業社の休息所を使うときには、一定額の施設使用料金も払ったりもします。

 これがいい加減なツアーバス会社だと、仮眠室の手配がないうえに、寝不足気味が加わったまま深夜に出発をしなけれればならず、さらに慣れない道中です。それらが重なって集中力が散漫になってしまい、これが事故の原因になることがあります。

 また自宅に近い勤務地に戻り、次の勤務まで8時間の空き時間があるとしても、その中に自宅までの往復の通勤時間も含まれます。ですから、自宅の位置によりますが、8時間あっても睡眠時間は約5時間という場合もあります。それ以下なら、睡眠時間もなおそれ以下です。

 会社側から強制できる次の出勤時間までの休息時間は8時間以上9時間以内と定めらえられています。そしてこれは週に2回までと決まっています。しかし残念なことにこれを守るツアーバス会社は少なく、中小バス会社などでは守られていない可能性もあります。

 休息施設にかかる経費が要らないほか、ツア―バス会社の運賃が安いのには理由があります。バスの停留所やタ―ミナル一つとっても意外と知られていな事実があります。路線バスを持つ会社は、決められたバス停を設置し、道路の路線価を基準として各自治体が決める割合で利用料を払っています。路線バス会社にはこの経費がかかっていますが、ツアーバス会社にはありません。

 一方で、考え方によっては、ツアーバス会社が路上駐車違反をしたうえに払うものを払っていないまま路線バスと同じような営業をしていたら、脱税にもなる可能性もありますね。ツアーバス会社の車両は路上駐車であり、これも通行妨害にもなります。

 このようなモラルが低下した会社を使う利用者にも問題はあるでしょう。知れば知るほど、特に夜間高速バスはきちんとした会社のバスを使った方がよいと思われます。特に夜間走行はリスクが高いので、万が一の時の保証制度も予約する前に調べ、慎重に選ぶことが大切です。

 

( 2012年6月5日 寄稿 )