奄美大島の居酒屋「一村」  by 小川 金治

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 長らく取材で旅をしていると、何度も訪れる所に馴染みの居酒屋ができる。奄美大島奄美市名瀬の居酒屋「一村」もお気に入りの店で、島を訪れては止まり木にしている。「一村」は、名瀬の繁華街屋「仁川戸通り」の奥まった所に隠れ家のように佇む。

 

奄美の居酒屋『一村』

 

 「屋仁川戸通り」は、鹿児島県では鹿児島市の天文館に次ぐ賑わいをみせる繁華街だ。南国情緒豊かで、港町の雰囲気が漂い夜な夜な賑わう。店の名前は50歳で島に渡り、島で生涯を終えた孤高の天才画家・田中一村に由来している。店の中はカウンター席と小上がりがあり、針千本が天井からぶら下がる島料理が自慢の店だ。カウンター越しに、大きな黒糖焼酎の瓶が二つ並んでいる。奄美諸島は黒糖焼酎の特区で、広く島民に親しまれている。

 瓶の中には、「長雲」と「竜宮」というブランドの長期熟成酒が、たっぷりと寝ている。注文すると柄杓で瓶の底から優しく掻き回し、氷の入った素焼きのグラスに、上呂を添えて注いでくれる。グラスの氷が注がれた黒糖焼酎でゆっくり溶け出す。グラスを口に近づけると、黒糖の甘い香りが鼻孔を刺激し何とも幸せな気分になる。

 その日の気分で「長雲」から飲むか、「竜宮」から飲むか変わる。4杯飲むと翌朝アルコールが残るので、悔しいが3杯で終わるように努力している。奄美の夜は定番の止まり木で、身も心も蕩けている。

 

( 2012年5月16日 寄稿 )