アートな旅  ~「群馬県立館林美術館」を訪ねて~  by 野﨑 光生

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<新春 アートな旅>
 群馬県南東部の館林市(たてばやしし)にある「群馬県立館林美術館」を訪ねた。
 多々良沼(たたらぬま)畔の田園地帯に立つこの美術館は、施設内を水が流れ、借景に日光連山と赤城山を臨む。
 穏やかな天候に恵まれたこの日は、著名な作家の企画展が開催されており、年末年始の休館明けということもあって、駐車場は満杯で館内も多くの人たちで賑わっていた。

 

館林美術館 全景

 

駐車場から遊歩道を歩いて行くと突然視界が開け、その先の橋を渡ると徐々に美術館が近づいてくる。こうした空間の演出が、見る者の興味をゆっくりと高揚させていく。
 近・現代美術を得意とするこの美術館は、建物自体も作品のようであり、入館する頃にはすっかりアートな気分に染まってしまう。

 

橋を渡るといよいよ美術館へ
うさぎの彫刻がお出迎え

 

<地元ゆかりの作家展>
 この日は「山口晃展 画業ほぼ総覧―お絵描きから現在まで」が開催されていた。山口晃(やまぐちあきら)氏は、幼少期から高校卒業までを群馬県桐生市で過ごした地元ゆかりの作家である。
 古典的な絵画の中に現代の日常生活をも描き出すといった作風で、多くの人々の共感を呼び、高く評価されている。中でも、「百貨店圖 日本橋 新三越本店」や五木寛之の新聞小説「親鸞」の挿絵が広く知られている。加えて槇原敬之のCD「LIFE IN DOWNTOWN」のジャケットデザインなど、幅広いジャンルで活躍している。

「山口晃展」の案内板

 

<地方公共美術館の役割>
 ところで、地方の公共美術館は、市民の美術鑑賞の機会を増やすなど、教育普及事業として位置づけられることが多い。
 しかし、地元だけでなく、遠方からも多くの人々を呼び込んで、その地域を活性化するという重要な役割も担っている。私が足を運んだこの日も、駐車場には東京や神奈川、長野などの県外ナンバーが目立った。さらには、鉄道とタクシーを利用した遠方からの美術ファンも訪れていた。

 

彫刻家フランソワ・ポンポンのアトリエを復元した別館

 

<地元の魅力発信>
 このような美術ファンには、美術館はもとよりこの地域の魅力も十分に楽しんでもらいたい。そのためには、周辺を回遊してもらうような工夫をすることが、受け入れる側には必要となる。例えば、山口氏の過ごした桐生市や、画廊の集積する足利市へと周遊してもらうような仕掛けづくりも有効だ。身近なところでは、「館林のうどん」などのご当地グルメを味わってもらうことも考えられる。
 「せっかく来てくれた人たちに、もっともっとこの地域を楽しんでもらわないともったいない」 そんなことを感じた新春のアートな旅だった。

 

( 2014年1月26日寄稿 )