旅じゃ会員 稲葉修三郎さん  ご受章おめでとうございます!!  by 森田 芳夫

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当会の会員の中で最年長である稲葉修三郎さん(88歳)が今年7月1日の発令で「旭日単光章」を受章された。稲葉さんは伊豆東海岸の河津町の旧家に生まれ、日照の乏しい谷間の地を終生離れることはなかった。しかし、今なお地域にあって目覚ましい活躍をされているその姿は新聞、TV、旅行雑誌などを通じて広く知られている。

受章の喜びを伝える文面

 

稲葉さんの長年にわたる活動分野をあげようとすると、余りに多さにたじろぐ。

あえてその一端をご紹介すると、終戦直後に行った地元青年会の立ち上げ、河津町々会議長、民宿「てっぽう」(40年間)のあるじ、文芸「かわづ」編集長、賀茂地区生涯大学(葵学園)指導者、民宿に関わる全国各地での講演等々がある。

なお、この3年間、85歳を過ぎとは思えない多彩な活動が顕著にみられる。たとえば川端康成ゆかりの「伊豆の踊子」碑建立の頃の追想、伊豆急「河津おもしろ駅長」、「かわづふるさと案内人」など、いずれもNHK始め各テレビ局が詳しく報道している。

昨年10月 東伊豆三筋山々頂(821m)に取材登頂。左から3番目が稲葉さん

 

さて受章の記念品である高品質のボールペン(高岡市製)に添え、生涯の記録帳ともいうべき著書『人生紀行』が送られてきた。A5判、並製、400ページ近くもある大作だ。あとがきにM嬢と称する女性や友人が本書の編集に参加されたとあるが、見事受章に的を合わせて刊行したその手際よさに驚く。

著書『人生紀行』と添えられた記念のボールペン

 

本書には終戦直後の昭和21年(1946)から今日までの新聞、雑誌、同人誌への投稿を始め、教師を務めた葵学園誌、「文芸かわづ」への寄稿と編集後記集、講演記録、民宿の客との交流、写真を軸にした家系の記録、伊豆の自然保護への提言等が収録されていて、どこから読んでも軽妙な筆致に引き込まれる。見出しの数だけでも100を越える。

なかの一編に「旅ジャーナリスト会議という会」という見出しの1600字ほどの一文があり、会が取り組んできた松崎の巨大水門、三筋山の風力発電問題を詳述した後に、この文を次のように締めくくっている。「河津町民としてジャーリスト会議員として伊豆の自然を守るのに残された人生を燃やしたい」。

稲葉氏の似顔絵4点『人生紀行』366頁より

 

本書は伊豆を舞台とする「草の根の昭和史」ともいうべき、時代を映す貴重な記録集である。同時に小学校5年のとき父を失い、上級学校への進学を断たれた一人の向学心に燃える青年が、独学で学びつつ見事な表現者へと成長していく過程を示す心の記録集でもある。すべての人に一読をお勧めしたい読み物である。

稲葉さんがますますお元気で、100歳を越えるまで活躍されることをひたすら願っている。

( 2014年8月31日寄稿 )