観光による地域振興(NZ)

九州 柳川への旅 ~旅の先にある暮らし~
by 野﨑 光生

川下りと鰻を求めて
福岡県柳川市へと旅をした。
情緒ある川下りの情景と、鰻のせいろ蒸しの写真が知人から送られ、旅心に火が点いたのだ。
川下りの舟頭さん、鰻屋の大将や魚屋の女将さん、そして観光案内所の方など、この旅でしか出会えない人たちに迎えられ、心もおなかもいっぱいになる楽しい旅となった。

「どんこ舟」は、お堀をゆられながら巡る

せいろ蒸しの鰻はアツアツで濃厚な味わい

 

いざ、柳川へ
旅は10月中旬、澄み渡る秋空のもと福岡から始まる。西鉄福岡(天神)駅から西鉄天神大牟田線に乗るのだが、ターミナル駅なので到着した列車が折り返して柳川駅へと向かう。
ホームに整列して待っていた人たちが列車に乗り込むと、一斉に座席の向きを進行方向へと回転させた。お互い見知らぬ乗客が一同に整然と反転させる姿を見て、地方都市ならではの日本らしさに心が和んだ。東京駅で新幹線の座席が自動回転するのとは対照的だ。それから間もなく列車は走り出し、福岡市の町並みを抜け、小一時間で西鉄柳川駅に到着した。

木や水をモチーフにした「西鉄柳川駅」はグッドデザイン賞を受賞

 

柳川の町へ
柳川駅を出てすぐに観光案内所に立ち寄り、川下りと鰻屋さんについて教えてもらった。すると、間もなく舟が出るというので、乗舟場を目指して柳川の町へと繰り出した。
商店街を抜けると、突然、視界が開け、足元を見れば川面に何艘もの舟が浮かんでいる。情緒のある光景に見とれていると、すぐ横を自動車が頻繁に走り抜ける。その慌しさに興ざめしたものの、考えてみればこの町では道路も舟着場も日常生活の一部で、観光が特別な存在ではないことを知らされた。

 

女性舟頭さんがお出迎え
それからほどなく乗舟することになったのだが、驚いたことに舟頭さんは若く華奢な女性で、「大丈夫かなぁ?」とちょっと不安になってしまった。しかし、それも杞憂に終わり実にパワフルで、しかも茶目っ気のある案内振りにはまたまた驚いた。1時間もの舟旅の間、ずっと舟を漕ぎながら、話したり唄ったり休む暇もない。しかも、たった1本の竹棹で舟を自在に操り、乗り心地も満点だった。

木々のトンネルの中、ゆっくりとお堀を進む

水面からの旅情
「どんこ舟」と呼ばれる小さな舟は、柳川城の外堀中堀を小さな石橋をくぐりながら、ゆっくりと進んでいく。武家屋敷だった「十時(ととき)氏邸」など名所旧跡をはじめ、「蜘蛛手棚」というカニや鰻を獲るための網の仕掛けなど、この地域ならではの産業観光的な一面も見ることができる。場面は次から次へと劇場にいるかのように展開していく。途中には水上売店があり、舟に乗ったままで買い物も楽しむことができる。水面からの景色は眺めるようでもあり、見上げるようでもあり、陸からのそれとはまったく違っていて、風を感じながらの舟旅は旅情をいっそうかき立てる。

武家屋敷「十時氏邸」と「まちぼうけ」(北原白秋)の碑(画面左)

クモの形をした「蜘蛛手棚」は、網を使った漁の仕掛け

水上売店では舟から買い物もできる

あとで気づいたのだが、私が持っていたガイドブックには、その舟頭さんの写真が大きく紹介されていた。おまけに柳川初の女性舟頭さんだとか。偶然とはいえ、幸運なめぐり会わせだった。

柳川初の女性舟頭さんはチャーミング

鰻と柳川
舟を降りてさっそく鰻屋さんに向かった。柳川の鰻はかば焼きではなく、せいろ蒸しが名物。街中には20軒を超える鰻屋さんが味を競う。地元の人は「3軒の鰻屋さんを持っている」そうだ。つまり、「家族で行く店、出前を頼む店、お客様を接待する店」だそうで、目的別に利用するらしい。それほどこの町には鰻が根付いているのだ。

 

好みの鰻屋さんを見つけて
これほどたくさんの店があってはどこで食べるか迷うので、観光案内所に寄って紹介してもらった。「地元の人の評判が最近良い店、私の年齢相応にあまりしつこくない味付け、洋食から参入したような老舗でない店」という勝手な条件で選んでもらい、数軒の店を紹介してもらった。
その中から選んだのが「万榮堂」。舟着場にあるこのお店は、大きな窓があり店内は明るく、ジャズが流れるおしゃれな雰囲気。「開店3年目なんです!」と話す気さくなご主人が、店の一角で鰻をさばいており、オープンな雰囲気が何とも新鮮だ。2階の席を案内され、お堀を行き交う舟を眺めながら料理が出てくるのを待った。
重厚感のある独特な器を見るだけでも、当地独自の食文化の伝統が伝わってくる。味はもちろん伝えるまでもなく美味だった。

お堀に面して佇む鰻店

客の目の前で鰻を焼く

 

まちの魚屋さん
店を出てお堀端の商店街を歩いていると、魚屋さんが目に入った。常連客が女将さんと今日のお勧めについて話し込んでいる。

今日のお勧めの魚は?

新鮮な魚が並ぶ中で目を引いたのは、ミイラみたいな痩せこけた魚だ。これは「ワラスボ」の干物で、有明海特産、地元では昔から愛されている魚で、刺身や煮魚で食べるらしいが、残りの骨は干物にして売られている。そう言えば、見た目が怖い「有明海のエイリアン」として最近全国に売り出し中だ。これなら土産に持ち帰れると、1袋10本を買い求めた。
女将さんに教えてもらったとおり、背中を包丁の背で数回たたき、それから5分ほど炙る。なぜたたくのかは不明。胴体部分はマヨネーズを付けて食べると、酒の肴として最高。頭は固いので、ヒレ酒のようにするとこれまた美味で捨てるところがない。
お客さんや女将さんと話していると、地元民になったような気分になり、何だかほのぼのとして嬉しい。

エイリアンに例えられる「ワラスボ」の干物

 

住んでみたい庶民の町
柳川は、北原白秋の生誕地であり、柳川藩3代藩主立花鑑虎(たちばな あきとら)の別荘であった「御花(おはな)」があるなど、文化レベルも高く歴史のある落ち着いた町である。しかし、私はとても庶民的で親しみやすく暮らしてみたくなる風土を感じて、気負わず等身大で楽しめる観光の町だと思った。それは出会った人たちの暖かさと、地域に根付いた生活文化に接したからだろう。
「柳川の人は3軒の鰻屋さんを持っている」と教えてくれた観光案内所の方、柳川の魅力について誇りを持って語ってくれた女舟頭さん、並みいる老舗の中で健闘する若手鰻屋さん、新鮮な有明の幸を扱う地元の魚屋さんたちとの出会いがあった。そして、舟下りで柳川の風を感じ、せいろ蒸しの鰻を味わい、土産にワラスボまで手に入れることができた。
「旅の楽しみは、人との出会いと異文化に接すること」というのが私の持論だが、まさにその通りの旅となった。地元の生活を垣間見るような旅をしたが、この次は柳川の家庭に上がり込んで、お国自慢を聞いたり家庭料理を食べたりしながら、柳川のよき暮らしを味わいたいと思った。

ワラスボのヒレ酒を、伊万里焼の茶碗で飲みながら旅を思い出す