ブックツーリズム ~ 本に出会う旅 ~
by 野﨑 光生
- 2019.11.26
- 観光による地域振興(NZ)

旅先で本を!
旅先で、コーヒーを飲みながら、ゆっくりと本を見つけたい。
そう思って、長野県へとブックツーリズムに出かけた。
旅の目的地「ブックカフェNABO」(上田市)
~庭にあるこの入口を左に進むと、また入口のドアが~
ブックツーリズムって?
ブックツーリズム(book tourism)は、イギリスのウェールズ地方にあるヘイオンワイ(Hay on Wye)という小さな田舎町で、「本の町」をテーマに観光振興を進めたのが発祥といわれている。「地方都市で古書店などをめぐりながら楽しむ旅」ということになろうか。
長野県では伊那市高遠町で毎年開催される「高遠ブックフェスティバル」に、古書店など様々な出店が並びイベントも開催されて、数千人の人たちが訪れるという。
また、上田市、長野市、松本市にはブックカフェが点在し、地元の人はもとより観光客も訪れている。
考えてみれば、長野県にはブックツーリズムのための資源が揃っている。例えば、地方というロケーション、ブックカフェ、ブックフェスティバル、ゆかりの作家、出版文化、観光のインフラ等々である。
目的のブックカフェへ
いくつかあるブックカフェの中から上田市にある「NABO(ネイボ)」を訪ねてみた。
古い蔵造りの店で、入口は正面ではなく横の庭に面してある。
そこから回廊を進み、再びドアを開けるとコーヒーとパンの香りに包まれ、正面にはカウンター、その横のガラスケースにはおいしそうなパンが並んでいた。
書店特有の紙のにおいとは違って緊張感がなく、やさしく迎えられたようで不思議な気分になった。
コーヒー豆を挽くグラインダーは重厚感が
おいしそうなパンが宝石店のように並ぶ
かつて紙を扱う店だった蔵造りの古い建物が、同じ紙でできた古本を扱うというのも何かの縁だろう。
天井には大きな梁がむき出しになっており、歴史も感じさせる。
店内には幼児を連れたお母さん、若いカップル、老紳士、ご婦人など、まさに老若男女が本を探したり、コーヒーを味わったりしてゆっくりと過ごしている。
カウンター以外にもあちこちにテーブルといすが置かれており、子どもに絵本を読み聞かせる母親の姿も。
また、平日の夕方には、勉強する高校生の姿も多く見られるとか。
老若男女がのんびり過ごす
旅先での本探し
信州の城下町上田というロケーション、そして歴史のある蔵造りの店という空間には、都会とは違ったゆっくりとした時間が流れているようだ。建物の空間の先には本の空間がまた広がっているようで、のんびりと落ち着いて過ごせる。
私は書店に行くとビジネス関係の実務書をついつい探してしまうのだが、この時ばかりはその癖をすっかり忘れて美術書を3冊ほど手に取った。
書棚には、美術書の隣に映画関連、旅行ガイドのまわりには民俗関連など、ゆるい関係でジャンル分けされ並んでいる。
その流れに誘われるように、探し手の私も次から次へと興味を引かれ見入ってしまった。
民藝のコーナーには、本とともに民芸品が飾られていて、あたかも本の中から飛び出してきたかのような臨場感もある。
「隣人に!」というお店の願い
ところで、この店の名前「NABO(ネイボ)」はデンマーク語で隣人の意味、英語ではneighbors(ネイバーズ)にあたる。「この場所が町の人のよき隣人であるように、手に取った一冊がその人の人生のよき隣人となるように」という願いを込めたそうだ。
驚いたのは、上田市に本拠地がある「バリューブックス」という大手ネット古書店が運営していることだ。ネット上では得られないリアルな情報を集めようと、5年ほど前にこの店を開いたとのこと。
よき隣人となりますように!
さてさて、私は選んだ美術書3冊を手に、カウンターに座った。
そして、長野名物のリンゴバターをトーストに塗り、コーヒーをすすりながら本を開いた。コーヒーを注文すると、本は買わなくても許されるような不思議な安堵感に浸ってしまう。
しかし、読んでいるうちにその本の魅力に惹かれていき、旅先にいるという開放感と、ここでしか出会えない本を見つけたような気持ちも手伝って、結局、3冊の中から2冊を選んで持ち帰ることにした。
新刊は探せば見つかるが、古本との出会いは「探し出す努力と偶然の賜物!」。この本が人生のよき隣人となりますように!
この本が人生のよき隣人となりますように!
「ブックカフェ・クルージング」
イギリスでは、はしご酒のことを「バー・クルージング」という。
私はブックカフェのはしごを「ブックカフェ・クルージング」と呼ぶことにして、本という隣人を探しにまた長野を旅したいと思った。
NABO: https://www.nabo.jp/
(NABOは一旦閉店し、2020年1月に新しいお店をオープンする予定です。)
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