北海道の動物たち(第8回旭山動物園の仲間たち)

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 旭山動物園は今もっとも人気のある動物園のひとつだ。その人気の秘密は動物たちの自然は生態が見られる「行動展示」によるもので、近年全国の動物園でも同様の展示施設が増えつつある。
 1967年7月に開園し、しばらくの間は入園者数も右肩上がりだったが、80年代前半をピークに減少を始めた。そして1994年にニシローランドゴリラやワオキツネザルが相次いでエキノコックス症で死亡するという事故が発生した。人間への感染の恐れはなかったが、入園者数の減少に拍車がかかった。閉園に危機に見舞われるが、動物園職員の努力によって奇跡の復活を遂げた。1997年に「ととりの村」と呼ばれる鳥たちが自由に飛び回るができる大きな檻の中に人間が入るというタイプの施設を完成させた。翌年以降「もうじゅう館」「ぺんぎん館」「おらうーたん舎」「ほっきょくぐま館」などといった施設を毎年のようにオープンさせ、2004年の「あざらし館」のオープンは多くのメディアに取り上げられた。その結果、夏期(7・8月)の入場者数は恩賜上野動物園を抜いて日本一となった。旭山動物園は全国の動物園の見本となり、行動展示を採用する施設はどんどん増えていった。もちろん旭山動物園の魅力は行動展示によるものだけではない。ここで働く職員たちの動物たちにかける愛情や熱意が来園客にも伝わるからだと思う。園内各所に見られる手作りの案内板や、「もぐもぐタイム」と呼ばれる飼育員による解説つきの給餌などソフト面にも見られる。
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 ここの動物たちはみんな生き生きとしている。ペンギンが空を飛ぶように泳ぎ、ホッキョクグマが豪快にプールにダイビングする。アザラシが水中トンネルからこちらを興味深げに見つめる姿などはテレビや映画などで見たことのある人も多いだろう。彼ら自身が楽しいのだから、見ているこちらが楽しくなるのは当然のこと。新しい施設がどんどん建設されていくので、リピーターが多いのも頷ける。
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 あざらし館の屋外部分の一角に簡単な金網で囲まれた場所がある。そこにはオジロワシが一羽だけいる。屋根もなく繋がれている訳でもないのだから自由に出入りできるはずなのだが、ただ止まり木に止まってじっと空を見ていた。この個体は1988年に稚内で交通事故に遭い、怪我をして保護されたものだ。その際に左翼を失い、野生に戻ることができなくなってしまった。つまり大空を飛ぶ自由を奪われてしまったということだ。大空の王者であった時のことを懐かしく思っているのか、それとも自分から翼を奪った人間の姿を見たくないのか、この時はこちらに視線を向けることはなく、哀しげな目でずっと空を見つめていたのだった。
 わたしは北海道が好きで、毎年のように訪れている。特に野生動物の生き生きとした姿を見るのが楽しみで、それを自分の記憶とともに写真にも収めている。その中で思い出深い動物たちのことを稚拙な文章で紹介してきた訳だが、これで彼らのことを愛しく思い、自然環境に対する関心を持ってもらえたなら、わたしのやってきたことが少しは意味のあるものとなる。厳しい自然の中で一生懸命に生きている健気な動物たちがいて、彼らが人間の手によって命や自由を奪われているという現実を知ることが、彼らとの共存への第一歩なのだから。
おしまい
投稿者:渡邊恵美子
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 渡邊さん連載お疲れ様でした。なお、渡邊さん投稿のバックナンバーはこちらのカテゴリーから見られます。最後だから読者のみんなもコメントを残していってね(by管理人)
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