歴史保存建築・近代建築(HRM)

< 北京の胡洞(フートン)保存地区は新しさと古さが混在する魅力の街 >

 北京旅行に来たけどあまり時間がないと言う人には、故宮の北側に胡洞(フートン)がたくさん残る南鑼鼓巷(なんらここう)の街歩きはいかがでしょう。清朝の役人が住んでいたお屋敷街を胡洞といいますが、今では共同住宅や店舗などで利用されています。ホテルやレストラン、バーにも改造されています。オリンピックの後は衛生が行き届き実にきれいになりました。中国の歴史を思いっきり感じさせます。

おしゃれな街に変身した北京の胡洞(フートン)保存地区

 

●フートンの建物は華北地方の伝統的家屋建築
 フートンという呼び方はモンゴル語で井戸を意味します。このことは、元(モンゴル高原を中心に支配した中国王朝)、清と異民族に支配され続けた中国の暗い歴史の側面を感じさせますが、これは日本人の感覚のようで、北京の人にこの話をしても、まず笑って無視されます。

 胡洞の建物は四合院で出来ています。四合院は、華北地方の代表的な間取りをした伝統的家屋建築。日本の古い屋敷は、いくつかの建屋をぐるりと塀が取り囲むロケーションですが、四合院は中庭を囲んだロの字型の真四角長屋と言っていい形態をしています。南に1つだけ立派な門があり、道路側は小さな窓だけで、大きな開口部はありません。防犯のためでしょう。

 門をくぐり中庭に入ると、正面に仏間と家長の部屋があり、それからぐるりと家族の寝室や厨房、食堂と続いています。この考えは陰陽五行説から出ているといいますが、日本の家相も同じ陰陽五行説から作られています。しかし、決まりごとはだいぶ違います。四合院には便所はなく、おまる(御虎子)を使います。風呂もありませんでした。街の本屋に入って住まいコーナーを覗くと、四合院の人たちのため、便所とシャワー室の作り方の本が山積みです。毛沢東全集の書棚の前は人がさっぱりいないのに、お部屋改造のコーナーには人だかりがしていました。

 プライベートのガイドを1日1万円で雇いました。言葉が通じると実に世界が広がります。歩いていると、日曜大工でシャワー室を作っている家に出くわしました。NHKのテレビ番組「世界ふれあい街歩き」の真似をして、ニーハオと声をかけると大工仕事中のお父さんが自慢げに中を案内してくれました。既に完成したトイレなどもうれしそうに実に丁寧に説明をしてくれます。しばらくすると奥さんが隣に登場、こちらは早く帰れと言たげでしたので、早々に退散することになりました。「豊かになれるものから豊かになれ。」鄧小平が言ったことを実践しているような場面でした。

 街区ごとには共同便所があります。人力の水洗トイレで定期的に、バケツで水を流す当番がいるはずです。家の中で使うオマルの方は、オマル洗い場があり、専門のオマル洗い人がいます。これは蘇州で目撃したことがあります。

 ガイドは若く高給取りで、生活レベルも高く、実は古い庶民生活を知りません。彼は「北京ではオマルなんかもう使わなくなりました」と言いましたが、まだまだ残っているはず。オマル洗いの現場を探してみてはどうでしょうか。

●中国の建物はレンガが主役
 さて、四合院の建物の構造はというと、木の柱と梁で仮構を組んで、壁はレンガを積み上げ、屋根は瓦です。日本人はレンガ造というと欧米の建物であると頑なに信じていますが、実はスペインから韓国まで文明が発達した世界中の殆どの建物がレンガか石を積み上げた構造なのです。日本だけは東南アジアの造りに近く、レンガをつかいません。

 ギリシャの巨大建築は大きな石を積み上げた石造でしたが、ローマの建物はレンガ造りで、その上に化粧で石を張り付けています。だから細かな細工が可能になったのです。レンガの方が文明を感じさせます。現在のフランスの田舎家はほとんどがブロック造ですが、昔はレンガか石積みでした。ヨーロパのレンガ壁は下地材であり、その上に石を貼ったり漆喰を塗って仕上げています。ですからレンガの積み方は粗雑であまり綺麗ではありません。レンガを意匠としてみせたのは産業革命後で、イギリスの布地のプリントデザイナー・建築家であったマッキントッシュが赤の家を造ったのが有名です。しかし、中国やインドでは、昔からレンガを仕上げとして表しにした建物がほとんどです。

 中国の建物は見事に綺麗なレンガが主役。街のはずれにはレンガ製造工場や集積場があります。街中の高級な建物には、レンガを積み上げる際のつなぎモルタルの目地がまったくない驚異的な技法のものもあります。レンガを積みそれを平らに削り取って、まっ平らに削りあげたレンガを更に積む。それを繰り返すのです。焼き方も高温で堅い黒レンガが多いのも中国の特徴です。ぜひその美しさを感じ取って欲しいものです。

 さて、胡洞探訪は、今では自転車タクシーでの胡洞お宅訪問ツアーがあり、誰でも簡単に見学出来ます。しかも、今だに胡洞の共同トイレは、絶滅したと言われている恐ろしいドアなしトイレなのです。是非とも経験をして見てください。当たり前ですが男女は別室です。

 

( 2012年7月1日 寄稿 )

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