酒蔵を観光の拠点に! by 野﨑 光生

酒蔵を観光の拠点に! by 野﨑 光生

 

< 地酒は旅の楽しみ >

旅先で地酒を味わうのは、何とも楽しみな話である。

もちろん、旅館や小料理屋で飲むのもよいのだが、できればその地の酒蔵を訪ね、作り手のうんちくが聞ければ、おいしさも一層増すというものだ。話は蔵のいわれから始まって、酒米や水のこと、土地の歴史や風土、そして周辺の見どころにまで展開する。

酒蔵には地域の情報や文化が集積しており、観光スポットであると同時に観光情報を発信する拠点ともなりうるわけだ。

 

< 一日千人超を集客 >

そうはいっても、酒蔵は何となく敷居が高いし、お土産ばかりが目に付くような、観光慣れした酒蔵に入るのは興ざめである。

そこで、ちょっと興味深い事例があるので紹介したい。それは栃木県小山市にある「西堀酒造(にしぼりしゅぞう)」という酒蔵で、「若盛(わかざかり)」という縁起のよい銘柄で知られている。年に数回もイベントを開いており、中でも春と秋に開催される「若盛祭」は盛大で、地元はもちろん東京や埼玉、千葉などの首都圏から、1,200人ほどの来場者でにぎわう。

西堀酒造の酒蔵は国登録有形文化財に指定されている
西堀酒造の酒蔵は国登録有形文化財に指定されている

 

< いざ会場へ >

若盛祭に足を運び、土蔵門をくぐって会場に入ってみると、地元商店の屋台が軒を連ね、当地の食材を使った豆腐やコロッケ、牛串などが売られていた。そこで酒の肴を選び奥に進んでいくと、若盛ブランドの酒が所狭しと並んでいる。その中でも常連客に人気が高いのは、出来立ての新酒はもちろんのこと、蔵で何年も寝かしてあった古酒などこの日限定の銘柄である。

この日限定の銘柄も並ぶ(左側のテント内)
この日限定の銘柄も並ぶ(左側のテント内)

 

< 地域の誇り >

酒と肴を持って蔵の前まで進むと、特設ステージで相撲甚句などが披露されており、飲みながら楽しむことができる。また、クイズに答えながら敷地内をめぐると、この酒蔵のことがわかるというイベントもあり、家族連れも飽きさせない。

もちろん遠方から来た人たちは十分に楽しんでいるのだが、注目すべきは地元客の笑顔である。当地では、地酒と地元食材の料理を飲み食いするのは、昔も今も当たり前のことだ。しかし、東京などの都市部ではもちろんだが、地方でも酒蔵が減ってきており、酒と肴の地産地消は贅沢な話になっている。つまり、この酒蔵があることは、地域の人たちにとっては自慢であり誇りなのである。その証拠に、来場客の間で、「東京からわざわざ来てくれたんですかぁ!」とか、「いいですねぇ!近くにこんな酒蔵があるなんて!」といった会話が聞こえてくる。

蔵の前では相撲甚句が披露された
蔵の前では相撲甚句が披露された

 

< 周辺に名所も >

さて、この酒蔵からほど近いところに、「思川(おもいがわ)」という利根川の支流が流れている。岸辺には、かつて江戸との舟運で栄えた「乙女河岸(おとめがし)」の面影が残っている。現在は小さな公園になっており、そこにはなぜか大きな石柱が飾ってある。

これは江戸時代に筑前藩主の黒田長政公が、日光東照宮に寄進した大鳥居の一部で、日光へ運ぶ途中で高瀬舟から落ちてしまったものと言われており、昭和の河川工事で発見されたものだ。

また、市内には徳川家康公が関ヶ原の戦いの直前に開いた軍議「小山評定」の史跡があり、その際に必勝祈願をしたという「須賀神社」がこの近くに鎮座している。

小山市は観光地として有名とは言えないが、この酒蔵を拠点にしてこれらの名所を巡れば、歴史ファンには十分に楽しめる地域である。

徳川家康公らが開いた軍議「小山評定」の史跡
徳川家康公らが開いた軍議「小山評定」の史跡

 

< さかぐら・ほっぴんぐ >

実は、栃木県には37もの酒蔵があり、小山市にはその内の5蔵が集積している。若手後継者によるブランド開発で、全国的に注目されている酒蔵も少なくない。

はしご酒のことを、米国では「バー・ホッピング」と言うらしいが、私は「さかぐら・ほっぴんぐ」との愛称で、これらの酒蔵をめぐる観光ルートを組み立ててみたい。

地元以外では入手しにくいという「門外不出」(蔵の中のアンテナショップ)
地元以外では入手しにくいという「門外不出」(蔵の中のアンテナショップ)

 

< 地域の資産 >

日本酒の消費量が年々減少しており、それに伴い酒蔵の数も減っている。しかしそうした中にあって、長い歴史を連綿と引き継ぎながらも、経営に工夫を凝らし健闘している酒蔵も多い。

酒蔵は地域文化が集約された資産であり、地域の誇りでもあるため、その果たす役割も大きい。つまり、酒蔵は銘酒の提供にとどまらず、地域の拠点として観光振興にまでも貢献できる地域の宝なのである。

 

西堀酒造株式会社のホームページ:http://nishiborisyuzo.com/

 

< ☆ 追記 ☆>

10月9日に大きなイベントが開かれるとの連絡が同酒造からありました。
「若盛祭」の開催について、下記のサイトをご覧ください。

 

↓ 下記をクリックしてください。

第27回 若盛祭のご案内

< 2016年10月2日寄稿 >