手漉き和紙の里(13)~遠野(とおの)和紙~  by 菊地 正浩

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入遠野川の清流
福島県磐城国石城郡上遠野村(かどおのむら)深山田(みやまだ)(現いわき市)は、常磐の山里に古くから伝わる和紙の里である。いわき市は昭和41年(1966)、平(たいら)、磐城(いわき)、常磐(じょうばん)、内郷(うちごう)と四倉(よつくら)、遠野、小川、久之浜の5市4町、好間(よしま)、三和(みわ)、田人(たびと)、川前(かわまえ)、大久(おおひさ)の5村が大合併した全国でも珍しいケースである。夏井川、藤原川、鮫川など総計21流の各支流をあわせて太平洋へと流れ込む。日本一長い海岸線(約80㎞)と日本最大級の面積を誇る広域都市である。
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遠野和紙の紙漉き場
そのなかで北西に位置する遠野地区は、鮫川の支流、根本川、入遠野川、上遠野川などの清流に恵まれ、山に囲まれた長閑な地域である。早くから安達郡川崎村(現・二本松市)より大判の障子紙を漉く技術が伝えられた。原料の楮や三椏を栽培し、黄蜀葵(とろろあおい)をニレと呼んでいた。秋の彼岸から翌年の八十八夜までの副業とし、その数250軒にもおよんだという手漉き和紙の里として知られた。現在ではほとんどが高齢化と後継者がいないため、廃業してしまった。
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遠野和紙の紙漉き場と紙製品
●いわき市遠野オートキャンプ場での和紙伝承
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市営の入遠野オートキャンプ場 キャンプ場の三椏
いわき市では入遠野に市営の遠野オートキャンプ場を開設した。入遠野川の畔でオートキャンプのできる施設を作り、宿泊設備やバーベキューなどの設備が充実している。紙漉き体験のほか、野鍛冶、つる細工、干し柿作りなど色々な体験イベントを企画している。和紙については、古くから地元で和紙作りを続けている人の技術を学びながら、遠野和紙の伝統を守っていこうとするものである。
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深山田の紙漉き農家 見事な赤い花の三椏
原料の楮は栽培して使用するが、周囲には見事な三椏が沢山植えられて綺麗な花をつけている。深山田地区にある紙漉き農家を訪れたが、それは見事な三椏の山である。今を盛りと花をつけているが、なかでも赤い花をつける三椏が印象的であり、これほど多くの三椏を見たのは初めてである。
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壊れてしまった釜 深山田の見事な三椏栽培
このお宅のご主人は、入遠野のキャンプ場へも出張して技法を教え、体験をさせている。何分にも高齢となり思うように活動できなくなったとのことである。漉き場を見せてもらったが、歴史を感じさせるものがある。現在、釜が壊れてしまったが、困ったことに修理をする職人がいない。他の道具は手作りでできるが、釜だけは専門の職人が必要であり、ここにも伝統産業を守る職人不足であることを痛感させられた。
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カッパ伝説の鉱泉宿中根の湯
この入遠野川沿いはイワナ、ヤマメ、鮎の渓流釣りとしても人気があり、6~7月下旬ともなれば源氏ホタルが光を放つ豊かな清流である。中根の湯という和紙の里に相応しい鉱泉宿もあり、訪れる観光客を癒してくれる。これからも永く和紙の里を伝承していってもらいたいと思う。

( 2009年7月9日 寄稿 )