新幹線を運転する9

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停止位置オーバーランだっひかり号のホーム待ち客も、無事何事もなく列車に乗りこんでいる。田村氏と互いにほっとした気持ちで、発車時刻を待つ。この運転台後部1から5号車の自由席車両は、デッキまで立つほどに超満席の状態で、お客のざわめきが後ろから聞こえてくる。
「かなり乗っているね!」
二人で話し込んでいると、コンコン♪ 乗務員扉を叩く音がする。ドアを開けると、いきなり大きな声で、
「何だよ今の止まりかたは。罰金ものだね?」
同期生の菊池氏が、笑い顔で入ってきた。彼は新大阪まで添乗(運転はしないで移動すること)だ。運転台下のボンネツト内から折りたたみ椅子を出すと運転席の2つの椅子の間に並べた。同期生仲間で話しが盛り上がるなか、ひかり5号は名古屋駅を3分遅れて発車をした。
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名古屋市街を離れると、やがて木曽川、長良川の2大鉄橋を渡る。木曽川手前から岐阜羽島駅手前まで、名神高速道路と並行する。
「この前のひかりの仕業で下ったとき、このあたりで俺の運転するひかりを追い抜きした車があったよ、250Kは出てたかな?」
菊池氏が話してきた。並行する距離は10Kもないが、この間、カーレースならぬ新幹線とレースをする車が出没することがあるのです。
岐阜羽島を過ぎた付近から長い登り坂になっていく。この辺から米原手前ぐらいまで約60キロの区間は、新幹線最大の難所である関ヶ原越えだ。関ヶ原まで、1000分の25、つまり、1キロ進むごとに25m高くなる勾配が続き、前方視界もケーブルカーでも運転しているような景色だ。冬場、日本海からの寒気が伊吹山付近で雪になり、大量の積雪をもたらすところだ。
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大雪のときは、スプリングクラーという、水を散らす装置が線路の両端に設けられ、水を散らすことにより、積もった雪を凍らせ雪の舞い上がりを防ぎ、電車のモーターなどに入って絶縁を破壊したり、床下にこびりついた雪の固まりが線路に落ち、砂利といっしよに飛び散って、床下機器やガラスを壊したりする事故のないようにしている。速度も70Kぐらいまで下げて運転をするため、雪が降ると30分から1時間は遅れてしまうのです。今日は雨の関ヶ原越え。雪の天候と同様に、雨の降る日もレールが濡れているのでよく滑る。それに急勾配も重なり、この様な状況のところでの定時運転は非常に神経を使う。登り坂なので速度が上がらず、油断をすると速度は下がっていく。いきなり加速をしようとノツチを上げると、車輪が空転を起こし速度計の針も左右にスライドばかりして、速度表示が安定しない。仕方なくノツチを戻すという繰り返しの運転になる。このため、速度も上がらず時間も遅れてしまうのです。
定刻どうりの時間でこの坂を登りきるのには、岐阜羽島を過ぎたばかりのまだ平坦なあたりから、全速力でこの勾配を登り始め、途中は小刻みにノツチを操作しながら、速度をできるだけ下げないようにして、だましだまし運転をしていく。この関ヶ原の急勾配は悪天候の時は、新幹線のいちばんの泣きどころなのです(いま700系をはじめとして雪の関ヶ原越えは、電車が線路面の滑り状態を感知して速度を自動的にコントロールするため、遅れも少なくなっています)。
明日のパート9につづく!
投稿者:にわあつし
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