博多慕情 小料理「由美」

NO IMAGE

nakasu.jpg
先日、博多に行って来ました。
冬の志賀島、春の陽気の能古島で、気温の差に戸惑いました。
博多は、学生時代を過ごした第二の古里です。中州の夜景を眺めていると過ぎ去りし日々が蘇り、ある店を思い出しました。中州から天神まで、金曜日の夜は多くの人々で賑わっています。懐かしい屋台も観光客で満席でした。国体道路から小路に少し入った所にある店は、小料理「由美」。見覚えのあるのれんを潜りドアを明けると、懐かしい顔のママが客席に座って、ラジオから流れるシャンソンに耳を傾けていました。突然現れた僕の姿に、戸惑いと驚きの表情でいました。

「ママ、お久しぶりです。」
「アラー、小川君じゃなかねー。」
「すっかりご無沙汰をしてしまって。30年振りです。」

僕は学生時代、西日本新聞社社会部でアルバイト(坊や)をしていました。夕方の5時から11時までで、朝刊の原稿を電話で受けたりするのが仕事でした。その直ぐ側にある社会部御用達の店が「由美」でした。
事件があると「由美」に電話をします。社会部の記者が必ず捕まりました。僕も良く通い、青春の悩みや失恋の相談をしていました。満州育ちで気丈なママは、変な客には「あんたの来るとこじゃなかよ、帰りんしゃい。」と追い返す。
当時、清川にアパートを借りて住んでいました。西日本新聞社には歩いて通える距離で、下駄履きで歩いていました。ある夜、「由美」のカウンターで飲んでいたら、突然入って来たオカマに股間を握られました。驚いた僕は、咄嗟に肘でその腕を打ちました。当時博多には、筑豊の炭坑夫上がりのガッチリとした体型のオカマがいたのです。絣の着物を着て、頭には赤いリボン、赤い鼻緒の下駄で夜の春吉界隈を彷徨っていました。
「あんたの来るとこじゃなかー、帰りんしゃい。」とママの一声。
オカマは捨て台詞を吐いて出て行きました。それからです。酔ってアパートへの帰路、後ろから下駄の音が付いて来ます。背中に寒い物を感じ、走って逃げました。真夜中の春吉に、下駄のカタカタと云う二重奏が響き渡りました。
yumino.jpg
穏やかな博多の母の顔を見ながら、焼酎のお湯割飲み干しました。口の中に苦い物が残ったようでした。

本当に怖かった。
投稿者:小川金治
人気blogランキングへ
※旅じゃBLOGでは会員からの投稿およびそれ以外の読者からのご意見・質問をお待ちしています。デジカメ写真の投稿も大歓迎です。(文字量は400~800Wが目安ですが基本的に自由です。たくさん書いていただいた場合は、複数日に分けることもできますので。おもしろ・びっくり写真などに簡単なネームだけでも全然OKです)。会員の方は直接書き込めるようにシステムを構築中ですが、なにぶんまだWEBコンテンツ技術が追いつきませんので、当分の間は管理人までメールで投稿お願いします。(宛先は必ず明記してください。迷惑行為防止のため、コメントとトラックバックをいったん保留後公開いたします)