ヨーロッパ心に残る町1

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シュタインアムライン〔スイス〕
もう30数年も前になるだろうか。初春のまだ薄ら寒い朝、ラインの流れる川面に上がる朝靄に陽に照らされた光の粒が輝き、靄の隙間から現れた民家の鮮やかな壁画模様。その美しさに、しばし呆然とたたずんだという、この町の強烈な印象が思い出される。
「ラインの宝石」に相応しい町シュタインアムラインは、あの緩やかなラインの流れからは想像もつかぬ、豪快な「ラインの滝」のある古都シャウハウゼンから、カラフルな電車で30分の道のりだ。ゆっくりとラインを船で楽しみながら訪れる行き方もある。
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久々に訪れたシュタインアムラインの空は、透き通るほどの青空で、遮るものは何もない初夏の陽射しが、肌を多い尽くす。静けさ漂う小さな駅を降り、坂道を10分ほど下ると、目の前はライン川。架かる橋のその向こうには、針先のように天を指す塔が目立つ。11世紀に建立された、この町の名の歴史を物語る聖ゲオルグ修道院である。そして、連なる家並みが、シュタインアムラインの旧市街になる。
橋の中央の欄干では、観光客らしき老夫婦が、しばし川面を眺めていた。「何か見えるのですか?」と、そっと声をかけてみた。
「ここからの景色眺めていると、身体中がリフレッシュされ、心地良い気分になるんだよ。時々、二人でここに来て時を過ごすのさ」
老夫婦は明るい笑顔で答えてくれた。青く澄み切った空の下を流れる、ラインの水の聡明さと、川岸ののどかな風景を見ていると、時の流れも止まり、安らぎの時を感じさせるロケーションだ。
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橋を渡り、緩やかな坂を上がると、目の前は市庁舎広場。石畳の広場の周りの家並みの壁には、中世の絵画の世界が広がる。人々や動物、調度品ほか、生活感溢れるさまざまな絵が描かれており、色鮮やかというよりは、歴史の深さが色として滲み出ている。まさに町並そのものが生きた美術館だ。なかでも、ホテル・アドラーに描かれた、画家アロイスカリジェの壁画は、あまりにも有名。そして、それぞれの家が、赤牛の家、王冠の家など名前を付けているのも大変ユニークである。壁画のすばらしさもさることながら、囲まれた窓にはゼラニウムやベゴニアなど、赤白のさまざまな花々が飾られ、賑わいを増している。スイスを旅していると、家の窓辺に必ず花が飾られている光景を目の当たりにするのだが、壁画と花々の調和した美しさは、この町ならではの風景だ。
旧市街のメインストリートは、市庁舎前広場から、ウンター門まで300mもない短い距離。車の通行が禁止の通りには、花屋さんや、レストランのテーブルなどが道に乗り出して店を開き、人々が集う。騎士像の立つ噴水では、水遊びの子どもたちが騒いでいる。
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賑やかなメインストリートを逸れて、路地に一歩入ると、裏通りは人影もなくひっそりとし、壁画の家こそ少ないが、中世の世界がそのまま現在に残っている感じ。横道から突然、「鎧の騎士」や「お姫様」でも現れそうな、心ときめく通りが幾つも存在する。また、ラインの川岸には、おいしい川魚のレストランが並び、川の美しい風景を眺めながら舌つづみを打つ。そして、この町の歴史を調べたいのなら、3カ所ある博物館を訪れるとよい。
シュタインアムラインの町は、旅人を中世の時代にタイムスリップさせ、忘れ得ぬ癒しの時を与えてくれる、心に残る町である。
パート2につづく
投稿者:にわあつし
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